「……ん、だから尚更心配なのよ。最近は性質の悪いのは減ったとはいえ、
この辺りが安全かっていうとそうでもないし、早めに見つけないとマズいことになりかねないから」
「リドには報せた?」
……なんか報せると、逆に私たちの方がマズいことになりそうな気もするけど。
「いや、もう少し探してみて見つからないようだったら報せるつもり。
さっきリド見かけたけど忙しそうだったから、手を煩わせるのもどうかと思って。
そういうわけだから、悪いんだけどリルグ探すの手伝ってくれないかな?」
「いいよ。ウィーにはいつも世話になってるからね。任せてよ。
見つけたら診療所まで連行しとく。それで良いよね?」
「うんうん、ありがとっ。今度お礼させてもらうからね。
よし、それじゃあ私は中央通りの辺り見てくるよ」
そう言うと、ウィーは小走りで探しに行った。こういうときでも走らないのはさすがというべきか。
それにしても、あれじゃ殆ど歩いてるようなものじゃないの。
こりゃ、私が頑張らないとリドにバレちゃうのも時間の問題だなぁ。急ぐとするか。
「それじゃ、私は行くわ。ミルミアは仕事があるし、ここ離れられないでしょ?」
「いえ、私も行きましょう。今日は人も少ないようですし、他の人に任せておいても大丈夫かと」
ミルミアはそう言って、他の部屋へ歩いていった。
……ありゃ、ヒマだったんだな。間違いない。でも実際、ここ最近依頼の数は減ってきている。
それというのも別にうちが依頼を失敗してるとかせいではない。
実際、うちのギルドの失敗率は1割以下で、
他のギルドに比べてもうちは一目おかれる存在だったりする。
これを説明するためには、私たちのいるこの街や、その街のある大陸などにも言及する必要がある。
私たちの街を始めとして、この大陸の多くの街は政治体系というものが確立されていない、
云わば無法地帯ってわけ。
誤解を招きそうだからもっと説明しておくと、別に犯罪が横行してるとか、
そんな酷い状況になってるわけじゃなくって、ちゃんと皆普通に生活を送ってる。
ちゃんと街ごとに市長だとか、取り仕切る存在がある程度は決められてるし。
さっき政治体系が確立されてないって言ったけど、
それは大都市とかであるような法で裁いたりだとかそういうのが無いってこと。
まぁ、どこの世界でも起こりそうな犯罪とかは起こる。殺人、窃盗とかその辺のね。
人が集まって暮らしている以上、犯罪が起きないことなんて有り得ないから。
自分だけで歩いていても、空気の摩擦を感じるように、
沢山の人と一緒に歩くっていうのは、須らくそういったことを内包してる。
いつ壊れるかもわからない平和を享受出来ている私たちは多分、
そんな壊れそうな部分を見なかったことにして忘れることが出来る能力を持っているせい。
それで、何か事件が起こったときにだけ今まで触れずに仕舞っていた、
傷つくことに何の耐性もない、そんな柔らかい心を持ち出してその時だけ傷ついた振りをする。
そして、その事件が忘れ去られた後は見なかったことにして、
また記憶の奥底に仕舞いこんで厳重に鍵をかける。
はは、何て素晴らしい力なんだろうね。まったく。
……あ、何か話が逸れたみたい。まぁ、いっか。続きはまたの機会にでも。
「お待たせしました。どこへ行きましょうか」
他の人に頼みに行くだけなのにやけに時間が掛かると思ったら、
着替えていたようだ。髪まで結ばれている。何で探しに行くだけなのにここまでするのか。
たまに彼女は私にはわからないことをやってのける。ま、ミルミアだし。
「そうね、記憶喪失のやつが行きそうな場所っていうと。……ん〜?どこだろ?」
「普通記憶に関連する場所でしょうが、彼の記憶がわからない以上は虱潰しに探していくしかないのでは?」至極全うなことを言ってくれる。その通りだけど。
「それじゃあ、戻ってる可能性もあるし一度診療所へ行ってみよっか。
近場だし5分も掛からないでしょう」
「ええ、わかりました」彼女は頷き、ギルドの裏門へと向けて歩き出した。
ミルミアの歩く速度は早い。私も遅れないように駆け足で付いていった。 →次へ